イーサリアムに「無トークンL2」登場

Ethereumエコシステムの開発者グループが、新たなLayer 2スケーリング案「Ethereum R1」を公表しました。報道によると、この構想はネイティブトークンを持たず、ベンチャー資金や事前配布も前提にしない設計で、credible neutrality(中立性)decentralization(分散性)censorship resistance(検閲耐性)を重視しているとされます。Ethereum Foundationも2026年3月に、強いL1を基盤にL2群と相互補完的な関係を築く方針を示しており、今回のR1はその議論とも接続する動きです。

R1が示したのは「機能」より「設計思想」

EthereumのL2は、処理をL1の外側で行い、必要な情報をL1へ戻すことで、混雑の緩和や手数料の抑制を狙う仕組みとして発展してきました。Ethereum Foundationの説明でも、L2はL1のセキュリティや流動性を活用しつつ、より高速で柔軟な環境を提供するものと位置づけられています。

ただし、L2が増えるほど「誰が運営し、どのように意思決定し、どこまでL1の性質を継承しているのか」という論点が前面に出ます。Ethereum Foundationは2026年3月のブログで、L2はL1に根ざしつつも独立したチェーンとして成長し得る一方、ユーザーが安全にL1へ退出できることや、セキュリティ特性を明確に理解できることが重要だと整理しました。R1は、この文脈で“L2とは何か”を再定義しようとする提案といえます。

ネイティブトークンなし、という選択

R1の特徴は、一般的なL2で見られるネイティブトークンやガバナンス・トークンを持たない点です。Cointelegraphの報道では、同プロジェクトは寄付ベースで運営され、Venture fundingやプレマイン配布を持たないと説明されています。これは、トークン発行を通じた資金調達やインセンティブ設計よりも、Ethereumの基盤に対する「中立な拡張レイヤー」としての立ち位置を優先していることを示唆します。

もちろん、トークンがあること自体が悪いわけではありません。実際、多くのL2は手数料、ガバナンス、エコシステム拡大のために独自設計を採っています。一方で、Ethereumコミュニティ内では、L2が実質的に別L1のように振る舞い、中央集権的な管理や不透明なガバナンスを抱えることへの懸念も以前から指摘されてきました。R1は、その違和感に対して「L2はもっと単純で、置き換え可能で、特定組織への依存を減らすべきだ」というメッセージを投げかけています。

すでに進んでいた「L1とL2の再整理」

今回の発表が単発で終わらないのは、Ethereum側でも同時期にL1とL2の役割分担を見直す議論が進んでいるためです。Ethereum Foundationは2026年3月の方針説明で、L1は最大限のセキュリティと分散性を維持しながら桁違いのスケールを目指し、L2はよりカスタマイズ性の高い独立チェーンとして成長する、という絵を示しました。さらに、L2の透明性や「walkaway test」、つまり利用者が危険な運営状況でもL1へ安全に退出できることの重要性も強調しています。

また、Ethereum Foundationはblob容量の拡張やL1スケーリングを進めており、L2の高速化とL1の基盤強化を同時に進める姿勢です。つまり、R1のような提案は、単に「L2を増やす」話ではなく、Ethereumがどの価値をL1に残し、どの価値をL2へ委ねるのかという設計論の一部とみるべきでしょう。

読み解くべき論点は3つ

第一に、ユーザー体験です。L2がいくら高速でも、ブリッジ、退出手順、手数料の変動が複雑なら普及は進みにくい。Cointelegraphは、L2が大規模利用に向けて“responsive pricing”のような新しい料金設計を必要としていると報じており、R1もまた、単に速いだけではなく、利用しやすさまで含めた再設計が問われます。

第二に、ガバナンスの透明性です。トークンを持たないことで政治的な摩擦は減る一方、誰が意思決定し、どこまで責任を負うのかは別の論点として残ります。Ethereum Foundation自身も、L2は透明性を確保し、セキュリティ特性を明確に開示する必要があるとしています。

第三に、Ethereum本体との関係です。R1のような中立性重視のL2が増えるほど、Ethereumは「土台としてのL1」をどう強化するかが重要になります。これは価格の話ではなく、データ可用性、最終確定、相互運用、そして長期的な分散性をどう両立するかというインフラの話です。

まとめ

Ethereum R1は、L2の新顔というより、「スケーリングの主役は何か」を再確認させる提案です。ネイティブトークンを持たず、中立性と検閲耐性を前面に出す設計は、Ethereumが重視してきた価値観をL2側でどこまで再現できるのかを問うものです。今後は、実装の進捗だけでなく、他のL2と比べてどこまで透明性と退出可能性を担保できるかが注目点になりそうです。