トークン化は“魔法の流動化装置”ではない

資産のトークン化は、Web3や暗号資産業界で依然として大きなテーマです。だが、Paris Blockchain Week 2026で示されたのは、「オンチェーン化=流動性向上」ではないという、やや冷静な現実でした。Cointelegraph Japanの報道によると、業界関係者は、プライベートクレジットや不動産のような非流動資産をトークン化しても、それだけで活発な二次流通市場が自動的に生まれるわけではないと指摘しています。

トークン化の役割は“売りやすくする”ではなく“設計し直す”こと

今回の議論で重要なのは、トークン化の価値を「売買が増えること」だけで測らない視点です。トークン化は、資産の発行や配布、保有記録、分割所有といった機能をブロックチェーン上で扱いやすくする一方、実際の売買が成立するかどうかは、別の条件に左右されます。Cointelegraphは、トークン化市場の拡大が続く一方で、取引が厚いのは米国債やコモディティのような標準化された資産に偏っていると伝えています。

つまり、トークン化は流動性を“保証する仕組み”ではなく、流動性を成立させるための土台の一部にすぎません。価格形成の参加者が少なければ板は薄くなり、売りたいときに売れない、買いたいときに買えないという状況はオンチェーンでも起こり得ます。これは暗号資産の世界でしばしば語られる「即時決済」とは別の論点です。

市場価値と流動性は別物

報道では、RWA(現実資産のトークン化)市場はこの1年で大きく拡大し、時価総額ベースでは約3倍超に成長したとされています。ただし、その成長の大半は、国債や短期金融商品など、もともと売買しやすい資産に支えられています。逆に、不動産やプライベートエクイティのような低流動性資産は、成長率こそ高いものの、市場規模はなお限定的です。

ここで押さえておきたいのは、市場価値の増加と二次流通の厚みは一致しないという点です。発行残高が増えれば時価総額は膨らみますが、取引所やOTC市場で実際にどれだけ売買されているかは別問題です。トークン化された資産が本当に機能するかどうかは、発行量ではなく、売買の継続性、参加者の多様性、価格発見のしやすさに左右されます。

非流動資産が抱える“構造的な壁”

非流動資産が流動化しにくい理由は、技術よりもむしろ制度と市場構造にあります。たとえば不動産や未上場株式は、法規制、権利移転の制約、評価の難しさ、投資家保護の設計など、売買以前の前提条件が多い資産です。トークンを発行しただけでは、これらの制約が消えるわけではありません。Cointelegraphの報道でも、トークン化市場の課題として、オンチェーン化してもその資産が自動的に自由に取引できるわけではない点が示されています。

また、二次市場が成立するには、単に買い手と売り手がいるだけでは足りません。マーケットメイカー、カストディ、コンプライアンス、清算、レポーティングなど、伝統金融で当たり前に用意されているインフラが必要です。RWAの議論が進むほど、ブロックチェーンそのものよりも、その上に乗る市場設計の重要性が目立つようになります。

それでもトークン化が注目される理由

では、なぜトークン化は依然として注目されるのでしょうか。理由は単純で、発行・配布・保有管理をデジタル化するだけでも、既存の金融・資産運用のワークフローを整理できる可能性があるからです。とくに、より標準化された資産では、オンチェーン化によって可搬性や分割性が高まり、機関投資家向けの新しい運用導線を作りやすくなります。実際、トークン化されたマネー・マーケット・ファンドや米国債関連商品は、機関投資家の関心を集めてきました。

ただし、今回のPBWでの指摘は、その期待にブレーキをかけるものではなく、期待の置き場所を修正するものです。トークン化は万能ではありませんが、資産クラスごとに目的を分ければ、発行コストの低減、記録の透明化、国境をまたぐ運用のしやすさといった利点は依然としてあります。

まとめ: 次に問われるのは“何をトークン化するか”より“どう市場化するか”

今回の論点を一言でまとめるなら、トークン化の本当の勝負は技術ではなく市場設計です。どれだけ資産をオンチェーンに載せても、取引参加者が少なく、制度対応が不十分で、価格形成の仕組みが弱ければ、流動性は生まれません。逆にいえば、標準化された資産や運用しやすい金融商品では、トークン化が既存市場の効率化に寄与する余地はあります。

RWAや資産トークン化をめぐる議論は、今後も「夢のある話」だけでは進みません。問われるのは、どの資産が対象なのか、誰が売買するのか、そしてその市場をどう維持するのか。トークン化の次の焦点は、まさにそこにあります。